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イラストレーション/村上めぐみ
第13回(ガジラ通信 vol18掲載)
『男はつらいよ お帰り 寅さん』
監督/山田洋次
主演/渥美清、倍賞千恵
ライター 黒住光さん

1963年岡山県生まれ。映画『まほろ駅前狂騒曲』、テレビアニメ『クレヨンしんちゃん』等の脚本を手がける。脚本に参加したアニメ『恐竜少女ガウ子』もNetflixで好評配信中。

 昭和の時代、お正月と言えば寅さん映画だった……というのは半分ホントで、半分ウソだ。映画『男はつらいよ』は1969年に第一作が公開され、好評によりシリーズ化。盆と正月に新作が封切られ、松竹映画を支えた看板人気シリーズだったのは事実である。しかし、60~70年代はテレビの普及により映画は斜陽産業となっていた。当時、岡山のような田舎の映画館だと普段は席数の1~2割ぐらいしか客が入らず、寅さんなら6~7割ぐらい埋まるかという感じ。映画の中ではヒットであっても、世間の話題の中心は映画ではなかった。お正月と言えば「紅白歌合戦」と「新春かくし芸大会」のテレビ黄金時代だった。
 80年代にホームビデオが普及すると劇場へは行かなくてもビデオで映画を観る習慣が一般に定着したし、シネコンの登場など興行スタイルの変化で劇場の観客数も若干は復活した。つまり70年代は最も人々が映画を観なかった時代だと思う。あの頃、正月に家族で寅さんを観に行ったという子供はクラスに1人いるかいないかじゃなかろうか。その中の1人が私だ。
 昨年のお正月、シリーズ50周年作品『男はつらいよ お帰り寅さん』が公開された。渥美清演じる寅さんは回想シーンのみの登場で、登場人物が寅さんのことを思いつつ現在のストーリーが描かれるという趣向。正直言って内容にはあまり感心しなかった。「満男の話が観たいわけじゃないんだよな」というのはシリーズ後期から感じていたことだ。それでも正月に寅さんを観るということが嬉しくて、家族で観た時代の追憶に浸った。「子供向けだけど大人も楽しめる映画」も良いが、「大人向けだけど子供も楽しめる映画」の方が後々分かる滋味が深い。劇場一杯の高齢者層はみんな穏やかな笑顔だった。コロナの前の公開で本当に良かったなと思う。