イメージ
イラストレーション/村上めぐみ
第10回(ガジラ通信 vol15掲載)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
監督/クエンティン・タランティーノ
出演/レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット
2019年8月30日公開
ライター 黒住光さん

1963年岡山県生まれ。フリーライター。
映画「まほろ駅前狂騒曲」、TVアニメ「クレヨンしんちゃん」等の脚本 にも参加。

 今からちょうど50 年前の1969年、俺は6歳の幼稚園児で、倉敷の水島にあった映画館で『ガメラ対大悪獣ギロン』に興奮しているガキんちょだった。その頃、同い年のクエンティン・タランティーノ少年は、カリフォルニアの映画館でセルジオ・レオーネ監督のマカロニ西部劇に夢中になっていたらしい。
 タランティーノの新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、その69年のハリウッドを描いた作品。ちなみにタイトルはレオーネの『ウエスタン』(68年公開。英題はワンス・アポン・ア・タイム・イン・ウエスト)にあやかっている。69年は世に言う「シャロン・テート殺害事件」が起きた年でもあった。当時、『ローズマリーの赤ちゃん』の成功で一流映画作家となっていたロマン・ポランスキーの邸宅に、チャールズ・マンソン率いるカルト集団が押し入り、ポランスキーの妻だった女優シャロン・テートを惨殺した。
 タランティーノがシャロン・テート事件を題材に映画を撮ると聞いた時は、彼一流のグロいバイオレンス映画を想像したが(実際にそういうシーンもあるにはあるのだが)、完成した作品はディカプリオとブラピが演じる架空のB級映画人が主役の、ほろ苦いグラフィティ映画だった。やたらダラダラと無駄に長いシーンの多い映画だが、男と女が街を歩く様を映すだけでも、そこに架空の世界が生まれ、その架空の時間に浸ることが映画の快楽なのだとタランティーノは分かっている。
 早熟とは言え、6歳のタランティーノがハリウッドの映画人たちの生活に触れていたわけはない。ただ、俺が69年の水島の工場の煙を吸ったように、タランティーノは69年のハリウッドの街の空気を吸っている。6歳のクエンティン少年が憧れた69年のオトナの世界。その妄想の69年ハリウッドへの懐かしい追憶がこの映画には詰め込まれている。60年代のオトナになれなかった、俺たちの夢の映画だ。