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イラストレーション/村上めぐみ
第9回(ガジラ通信 vol14掲載)
『グリーンブック』
監督/ピーター・ファレリー
出演/ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ
2019年3月1日公開
ライター 黒住光さん

1963年岡山県生まれ。フリーライター。
映画「まほろ駅前狂騒曲」、TVアニメ「クレヨンしんちゃん」等の脚本 にも参加。

 世の中何があるか分からない。まさかピーター・ファレリー監督作品がアカデミー賞を獲る日が来るなんてなあ。『メリーに首ったけ』『ジム・キャリーはMr.ダマー』など、「下品でおバカ」(雑なレッテルだなあ)なコメディを撮り続けてきたファレリー兄弟の兄ピーターだ。敬愛する映画人なら他にもたくさんいるけど、私が心底からシンパシーを抱けるフィルムメイカーはファレリー兄弟だけだ。素直に嬉しい。
 オスカー受賞作『グリーンブック』は、まだ黒人差別の激しかった60年代初頭、知的な黒人ピアニストと粗野な白人の運転手に芽生えた友情を描く感動実話系のロードムービー。白人と黒人の役どころに一捻りはあるものの、ファレリーならではの毒は抑えてオスカーにふさわしいキレイなイイ話になっている。かつてファレリー兄弟は「毒を中和するためにハートウォーミングな要素を入れるようにしてる」と語っていたが、そんなの照れ隠しでしょ。アンタら根が優しいのはバレバレだってば。
 ところが、この作品の受賞に対してスパイク・リーら黒人系映画人から批判があったらしい。白人と黒人の例外的な友情を描いても白人が気持ちよくなるだけで、むしろ黒人差別の現実から目をそらすだけだと。うむ、その意見も一理はある。残念ながら、ファレリーはスパイク・リーのような「反差別」の闘士じゃない。被差別者や障がい者やマイノリティを「ただの隣人」としてフラットに描いてきたファレリー映画が目指すところは差別と戦うことじゃなく、それを笑い飛ばす「脱差別」である。いつだってファレリー映画の根底にある思想は「人類皆バカ兄弟。誰とでも仲良くなれるよ」という、ただそれだけなのだ。
 相田みつをが流行る前、日本の飲食店や一般家庭の居間の壁によく掲げられていたのは、武者小路実篤が野菜を描いた色紙の複製画だった。「仲良き事は美しき哉」ってやつ。あれって最近見なくなりましたね。