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イラストレーション/村上めぐみ
第8回(ガジラ通信 vol13掲載)
『ファースト・マン』
監督/デイミアン・チャゼル
出演/ライアン・ゴズリング
2019年2月8日公開
ライター 黒住光さん

1963年岡山県生まれ。フリーライター。
映画「まほろ駅前狂騒曲」、TVアニメ「クレヨンしんちゃん」等の脚本 にも参加。

 2025大阪万博の開催が決定した。気づけば1970年の大阪万博からほぼ半世紀だ。1968年にアポロ11号が月面着陸して世界中に宇宙ブームを巻き起こし、アポロ12号が持ち帰った月の石が大阪万博で展示され、国民が長蛇の列をなした……なんて昔話を書くのは我ながらイヤになる。何しろポルノグラフィティが「僕らの生まれてくるずっとずっと前にはもうアポロ11号は月に行ったっていうのに」と歌ったのさえ20年前の話なんだもんなあ。
 アポロ11号のニール・アームストロング船長を描く映画『ファースト・マン』を見て思ったのは「ああ、もうこれは時代劇の部類に入る話なんだな」という感慨だ。こっちはリアルタイムで見聞きしてきたんだけど。宇宙飛行士の実録映画には1983年公開の傑作『ライトスタッフ』がある。あの映画は「宇宙飛行士なんて鉄の塊に乗せられ飛ばされるだけ。猿でもできる」と言って宇宙計画に参加しなかった空軍パイロット、チャック・イェーガーにスポットを当てることでヒーロー論を展開した。今さら、ただ飛ばされただけの人が主役で映画になるのか?
『ファースト・マン』はガタガタ揺れる宇宙船内でひたすらGに耐えるだけのアームストロングを映し出す。「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大いなる飛躍だ」というのは、アームストロングが月着陸船を降りて月面に最初の一歩を踏み出した時に言った、あまりにも有名な言葉。「この一歩のために人類が努力してきたのだ」というところに私たちは感動してきたが、『ファースト・マン』はそれを反転させ、「人類にとって大きな飛躍かもしれないが、そこに一人の人間の小さな一歩があった」ことを描く映画だ。たとえ超大作でも個人を描こうとする監督デイミアン・チャゼルはポルノグラフィティよりも若く、大きな物語のない時代を生きている。ここに描かれるアームストロングの小さな一歩の意味に泣く。