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イラストレーション/村上めぐみ
第6回(ガジラ通信 vol11掲載)
『15時17分、パリ行き』
監督/クリント・イーストウッド
出演/アンソニー・ サドラーほか
2018年3月公開
ライター 黒住光さん

1963年岡山県生まれ。フリーライター。
映画「まほろ駅前狂騒曲」、TVアニメ「クレヨンしんちゃん」等の脚本 にも参加。

 クリント ・ イーストウッドの映画を初めて見たのは小学4年の時。昔、倉敷駅前にあった三友館で見た『荒野のストレンジ ャー』だ。マカロニ・ウェスタン(60年代に一世を風摩したイタリア製のダーティでバイオレントな西部劇)でスターになったイーストウッドが、アメリカに凱旋してからマカロニ風西部劇を本家アメリカで撮ったもの。イーストウッド自身の監督2作目であり、後の「ペイルライダー」の原型にもなった、なかなか渋い作品だった。

 あれから45年、今も現役で映画を撮っているイーストウッドの監督最新作 「15時17分、パリ行き」を見た。パリ行き急行列車内で無差別テロを行おうとした犯人を、たまたま乗り合わせた3人の若いアメリカ人観光客が取り押さえたという実話の映画化。共和党支持者でトラン プを擁護する発言もしたイーストウッドが、こういうアメリカの若者の英雄的行動を賛美するような映画を撮ることに対して、リベラル派からの風当たりは冷たい。たしかにイーストウッドはヒーロー論にこだわり続けているが、それは単純な英雄万歳、アメリカ万歳じゃないんだけどなあ......。

 イーストウッドがマカロニで演じたのは、それ以前のジョン・ウェイン時代のヒーロー像をくつがえすような、ニヒルで無表情で何を考えているか分からず、卑怯な手段も平気で行う、複雑な人物だった。そもそも『荒野の用心棒』に始まる三部作でイーストウッドが演じたガンマンには名前もない。無名の若者たちがヒーロー的な行動をとるに至ったのはただの偶然なのか必然なのかを描く今回の作品まで、イーストウッドは一貫してヒーローへの懐疑を描き、ヒーロー像の深化を図ってきた。どこの派閥に属しているかより、どれだけ複雑な人間かということで、私はその人を信頼するんですけどね。