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イラストレーション/村上めぐみ
第5回(ガジラ通信 vol10掲載)
『ダンケルク』
監督/クリストファー・ノーラン
主演/トム・ハーディ
2017年7月公開
ライター 黒住光さん

1963年岡山県生まれ。フリーライター。
映画「まほろ駅前狂騒曲」、TVアニメ「クレヨンしんちゃん」等の脚本 にも参加。

 話題の戦争映画『ダンケルク』を最初に見た時、3人の若い兵士の顔の見分けがつかなくて混乱した。歳をとると若者の顔がみな同じに見えるし、おまけに揃いの軍服着てたらねえ……。で、2度目を見たけどやっぱり見分けがつかない。でも、これでいいのだと思った。

 シンプルなタイトル文字に続いて現れるファーストカットは、撤退する兵士たちを背後から映した画面だ。観客は彼らの後をついて行くように映画に入っていく。いわゆるPOVとか主観ショット、―人称視点などと言われる手法に近い。これは戦場を舞台にした群像劇というよりは、戦場そのものを描いた映画だ。登場人物の顔を見せて芝居に引き込むのではなく、観客をいきなり戦場のカオスに叩き込む映画なのである。

 戦闘機パイロットを演じるトム・ハーディなんて、スター役者なのにほとんどゴーグルとマスクで顔が隠れたままだ。考えてみれば、戦争とは個人が顔を失ってしまう状況なのだと思う。この映画には兵士が焚き火を囲んで各々の過去を語るシーンとか、各々の回想シーンなどは描かれない。本来なら、そういう個々の人生の主人公であるはずの人間が、戦争という大きな物語の中で「その他大勢のエキストラ」みたいな存在に貶められてしまうことが、戦争の悲劇の本質ではないか。自分が世界の主役だと勘違いした権力者たちと、自分の人生の主役として生きる責任から逃げ、徒党を組むことで安心したい大衆が戦争を起こす。

 アクション、スリル、サスペンスを存分に味わえる戦争映画というジャンルが私は大好きだし、それをドラマではなく画力で体感させる『ダンケルク』は、映画の中の映画と言える大傑作 だと思う。でも現実の戦争は絶対イヤだよと、そう言える人生のヘタレな主人公でもあり続けたい。