MY RIGHT HAND WITH G 『右手がGの男』
『ジ・アタッチメンツ』

 部屋の壁には一面、防音ボードが敷き詰められている。音楽教室とかにあった、無数の孔の空いたあの白い壁だ。ここはいったいどこだ?
「ここは我が社の倉敷営業所です」
 こいつは驚いた。目前にいる田口社長、オレの心が読めるのか!
「いやいや、さっきからキミ、つぶやいてるでしょ。『部屋の壁には一面~』とか『読めるのかぁ!』とか」
「え、やだなあ、マジですか?」
「この人やっぱり、バカなんじゃ――」
「おい、バカって言うな! 人をこんなところにさらっておいて――」
「アンタが気絶したから運んであげたんでしょ! だいたいわたしがちょっと触ったくらいで情けない――」
「ふたりとも、おやめなさいって」
 子供を諭すような口調で社長が言って、まっすぐこちらに向き直った。
「揉めている場合じゃないんです。あなたたちには、今後チームとして一緒にやっていただかなければならない」
「はあ? チーム? なにわけのわからないこと言ってるんですか。いったいなんなんですか、あなたたちは!」
「お怒りはごもっとも。だからわたしはね、今日は全部お話しするつもりですよ。でも、まずはこれ見てください。ハイ、お願いしますよー!」
 瞬間、部屋の蛍光灯が消えたと思うと、壁の一面にプロジェクターの映像が映し出された。モノクロームの写真にナレーションが入る前半から、後半は一転、クオリティの高いCG映像がふんだんに使われている。タグチ工業のPR動画だった。最後は宇宙航空研究開発機構<JAXA>と協同したプロジェクトを紹介してエンドロール。
「うちのメインの事業は油圧ショベルの先端に装着するアタッチメントの製造・販売ということです」
 そこで部屋に蛍光灯が灯った。
「そしてキミの右腕にあるのは、我が社の主力製品である<GUZZILLA>です。もっと詳しく言うと、解体で鉄骨や鉄筋を切断することを目的としたカッターというアタッチメントです」
 おおよそのことは知っていた。でも、問題はそれが何かでなく、なぜオレの右腕にあるのかだ。
「順序が逆になってしまいましたが、ここで娘を紹介しましょう。仮に<A子>としておきましょうか——」
「お父さん、それ、お姉ちゃんの詠子と読みが同じでまぎらわしいから。それに仮じゃなくていいし。……ええ、三女の萌絵子ね、以後よろしく」
 素っ気ないことこのうえなし。名前とは大違いだ、ちっとも萌えない。
「だから聞こえてるって!」
 おっと、またつぶやいたらしい。
「萌絵子さん、さあ見せてあげて」
 社長が言うと、萌絵子が薄いため息をひとつついて、オレに顔を向けた。
「ちょっとさ、目、閉じててくれない?」
 不本意ではあるが、その場は言われるまま目を閉じた。ほどなくしてだった。まぶたの裏側が赤く染まるような光を感じて思わず目を開けた。なんだ、あいつの左手、カニみたいなのは?
「これ<GRASPER>といって、つかみ機と呼ばれるアタッチメントです」
 腕組みをした萌絵子がだるそうな仕草で赤い爪の部分を開閉して見せた。
「ほら、わたしも<G>ってわけ」
「ついでにもうひとり紹介させてください。専務ゥー、入って来て!」
 間髪入れずにドアが開き、青いシャツを来た青年が入って来た。面接のときに一度会った若い男だった。
「またお会いしました、田口博章です」
「うちの長男です。専務、あれ見せてあげてくれないかな?」
 専務はうなずくと一歩下がって眼鏡をはずし、胸のポケットに入れた。その場で歩幅を肩幅ほどに開き、握った右の拳を顔の前にかざして叫んだ。
「シャイン・マグネット!」
 一陣の風をもろにくらって顔を背けた。再び目を開けると、専務の右手、巨大な馬蹄のような金属の塊が……。
「これ、<マグ・ゴン>といって、解体の現場で鉄筋や鉄くずを電磁石でくっつけるアタッチメントです」
 あまりの現実味の乏しさに意識が遠のく。本日、二度目の気絶……。
「キミたちは今日からひとつのチームです。チームの名前は——」
 なかば朦朧とした意識のなか、しかしオレはその名前をはっきり聞いた。チームの名前——ジ・アタッチメンツ。

*『ガジラ通信』本誌に掲載したものに一部加筆・修正しています。なお、本作品はフィクションです。登場する企業「タグチ工業」は実在しますが、部署名、人物名、人物のキャラクターのだいたいは創作です。